忘れちゃいけないキモチ

Norika Ikeda

池田 紀花

※本文には『moon』のネタバレが含まれます。未プレイの方は注意してください。


突然ですが、皆さんは"ゲーム"好きですか?
私は大好きです。
だって楽しいし、面白いし、非現実な世界に行けて、とても心を動かされるから。
それはもう好きすぎて、ゲームを作るために長岡造形大学に入学してしまうくらい。

そんなある日、ゲームクリエイターを目指す私はとあるゲームに出会います。

『moon』

本作は1997年に発売された、PlayStation用ゲームソフト。
「もう、勇者しない。」
このキャッチコピーとともに粘土細工のようなキャラクター、童話のようなストーリー、そして冒険的なテーマを持つ「アンチRPG」をテーマとした伝説的ゲームです。

また、ストーリーの中には大きなメッセージが隠されており、それに気付かなければ真のエンディングを見ることは出来ません。
キーワードは「扉を開けて」。
そのエンディングは、"ゲーム"そのものの存在を否定しかねない皮肉なものでした。
そして、当時の私にとって衝撃的な選択だったのです。

どんどん「moon」をプレイしていくうちに、
「幻夢などやめて早く目覚めよ」
「テレビゲームなんてやめて早く寝なさい」
「ゲームなんかやめて早く電源切りなさい」
"ゲームをやめろ"というメッセージが再三「moon」の中で繰り返されます。

また、舞台であるムーンワールドがゲーム機におさまったCD-ROMを模していることがプレイヤーにわかります。
つまり、扉とはゲーム機本体の蓋のことだったのです。

ラストには、「テレビゲームなんてやめて、早く寝なさい!」と母親に言われた後、ひとつの選択肢が登場します。
それはゲームをコンティニューするかどうか。
ここでYESを選ぶとバッドエンドで、ムーンワールドから抜け出せなくなる。
そしてNOを選び、ゲームをやめることでトゥルーエンドに到達できる。
もはやこの運命を避けるにはコントローラーを置くほかない、ということだと思う。

「ゲームをやめることがゲームクリア…?」

普通、ゲームをクリアしたいなら、ゲームを続けていることが大前提。
なのに「moon」の最終目的である「光の扉を開ける」には、ゲーム機の蓋を開けて、ディスクを取り出し、続けることを断念しなければならない。
つまり、ゲームをやめて部屋から出なければならないのです。

この選択肢はプレイヤーに言っているんじゃない。
きっと私に向けて、語りかけているんだ。

私は初めてこのエンディングを迎えたとき、
「ゲーム自体は何も生まない」
「ゲームの幸せ≠自分の幸せ」
という当たり前なことにふと気がついた。

ゲームで感動するのは、自分の過去の経験に基づいて共感したり、
キャラクターの名言に心打たれるのは、生活に有益な価値観や考え方を得たからで、
マルチプレイが楽しいのは、年齢や国を超えて楽しく人と繋がれるから、

これって全部ゲーム外のコトですよね?

本当のゲームの魅力って中身よりも「ゲーム外の体験」なのかも?
そう思うと、なんだか世界が広がった気がしてワクワクした気持ちが湧いてくるのがわかりました。

そのとき、自分の手がけたゲームをきっかけに誰かの人生に彩りを与えるような
そんなゲームを作りたい!と強く思いました。

「moon」はゲームという物語を終わらせることで、日常における次の始まりを迎えることができることを教えてくれました。
私にとっては、誰かの日常を彩りたいというクリエイターとして次の一歩を踏み出す目標を教えてくれました。

フィギュアは、このキモチを形に残して忘れないためのもの。
そして、私の夢や覚悟を込めた大切な宝物なのです。

Uxlab #05

2 Much 2 Soon

Norika Ikeda