祝福の軌跡
松川家では家族の誰かが誕生日を迎えたときに兄弟で色紙を作って贈るという文化がある。 今回私が展示したものは、8つ下の弟と2つ上の姉が 私の12歳から17歳の誕生日を迎えたときにくれた6年分の色紙=祝福の軌跡である。
6年分の色紙を並べてみる。すると、歳を重ねていくごとに平仮名が書けるようになり、漢字が書けるようになり、そして英語が出来るようになり、弟の成長速度をこの目この手で感じとれることがとても感慨深い。
それだけではない。幼い弟が姉の手を借りて私の特徴を捉えた似顔絵を描いてくれて、思い思いに色紙を彩り一生懸命に私のことを想って作ってくれたのだと思うと愛おしさが溢れてくるのだ。
私が特にお気に入りとしているのは、私が13歳の頃にくれた色紙。当時弟の年齢は5歳である。
この頃、弟は幼稚園で読み書きを覚え始めた頃であり、初めて姉の手を借りずに文字を書けるようになったのだ。似顔絵も12歳の頃とは比べ物にならない程人物としての特徴を捉えられている。4歳→5歳の成長速度に驚きである。
しかしよく見てみるとおめでとうの「う」が反対で、誕生日当日、弟が少し恥ずかしそうに色紙を渡してきたのを覚えている。だがそれすらも愛おしい宝物だと思えるのは、弟が私に見つからないように一生懸命作ってくれたという背景があるからなのだろう。
この色紙を展示した理由は、ただ弟の成長過程を感じ取れるからというだけではない。色紙こそ、私がデザインの道を志すことになった原点であるからだ。
(↑弟の9歳の誕生日に贈った色紙。顔出しの許可はもらえなかったのでモザイク)
贈る相手の特徴を思い浮かべて似顔絵を描き、相手の好きな色で思い思いに色紙を彩る。そして相手への感謝と祝福の気持ちを込めてメッセージを書き連ねていく。
この一連の流れは、まさにデザインのプロセスと言えないだろうか。
デザインも、届けたいターゲットの抱える問題から本質を見出し、相手の求めるイメージを自身の表現方法で形成していく。そしてターゲットの今を少しでも明るく照らし、豊かに、幸せにする。
私はこの色紙を贈り合う文化のように、目の前にいる誰かに対してデザインを通して一人でも多くの人のくらしを、未来を明るく照らせるようになりたいと思い、デザインの道に進むことを志したのだ。
この先、この志を忘れかけて、諦めてしまいそうになったときは、兄弟たちから貰った色紙を見て祝福の軌跡をたどり、一つ一つ前に進んで行けるように大切に残しておきたい。