365編の物語
読書が好きだ。
しかし、本が好きかと問われたら、まっすぐな肯定はできない。
私には、本を買う習慣がない。 自室の本棚に並ぶのは、旅先で購入したお土産としての本や、 偏愛する著者数人の作品、それだけ。 本屋で偶然出会って勢いで購入、なんて経験はほとんどなく、 所有する本すべてを一箇所に集めたとしても、1つの本棚に収まるくらいの冊数だろう。 しかし、読書は好きだ。 というより、図書館が好きなのだ。 図書館は、あらゆる出会いの可能性が開けている場所に感じる。 社会学に哲学、栄養学まで。 ジャンル不問で気になった本を片っぱしから借りて、 大抵借りた本の8割は序盤20ページ以内で挫折し、 1、2冊はかろうじて読み切る。 この無責任なスタイルが、私なりの図書館との向き合い方だ。 一つのことについて深く突き詰めるよりも、たくさんの知識を少しずつ得ているときの方が楽しい、という考えは 図書館に入り浸ったせいで育ってしまった価値観なのではないか、と推測する。 そもそも私が図書館に通うようになったきっかけは、 おそらくこの本が自宅にあったからだろう。
物心ついたときから家にあった、読み聞かせの本。 365編の物語が収録されていて、1年間かけて子どもに読書の習慣をつけさせられる。 小学校にあがりたての私は、暇さえあればこの本を読んでいた。 「子どもが眠るまえに読んであげたい」という本の用途を簡潔に示す表紙のサブタイトルを無視し、 暇さえあれば読んでいた。 収録されている物語は伝記や昔話、落語まで様々。 絵本では出てこなかった、落語という新ジャンルに幼い頃の私は夢中になった。
幼い頃の私にとって、この本は片手に収まる図書館のような存在だ。 たくさんの物語を少しずつかいつまんで読んでいるときが、すごく楽しい。 そんな幼い日の感動を、展示を通して共有できたらと思う。