私のこころの処方箋

Ozaki Mahiro

尾崎 日洋

高校生の頃、美術大学を目指して通っていた画塾で、私は多くのことを経験しました。
デッサンや色彩構成だけでなく、調査や企画、デザイン、 人とチームを組んで、一緒に作り上げること。
そして、何より苦手だった「人前で話すこと」。

当時は、プレゼンになると棒読みになってしまって、 「カーナビ」とよく言われていました。
自分でも笑いつつ、これは直したいなと思っていたのを覚えています。
そんな私の緊張や不安も含めて、 ユーモアを交えながら励ましとアドバイスをくれたのが、先生でした。

入試の前日。
そんな先生から渡されたのが、処方箋の袋に入ったカイロと付箋のメッセージでした。
「やってきたコトで勝負する」「カーナビ禁止!いつも内容はいい!」——
それは、私の弱みも強みも知っている先生だからこそ贈ることができた、“処方箋”でした。
私はそのカイロを、今もまだもったいなくて使っていません。 手に取るたびに、心があたたかくなって、 画塾で過ごした時間や、先生の言葉を思い出せる、大切なお守りのような存在です。

展示では、そのカイロが私の“処方箋”になった背景を、画塾での日々の積み重ね、写真やメモ、作品とともに並べました。
この画塾での日々があったからこそ、このカイロは私の”私宝”になったのだと思います。
今では、プレゼンも少しは上達して、カーナビもきっと卒業できたのではないかと思っています。
それでも、あのときもらった“処方箋”は、今もひっそりと効いていて、ふと思い出した時に前向きな気持ちになれます。